すべては漂っている

本や日々のことについて書きます

2022よかった本

2022年に読んだ本70冊くらいの中で、未だに強く印象に残っているもの、特に読んでよかったと思うもの3つです。

 

著者 :
発売日 : 2022-02-19


『「その他の外国文学」の翻訳者』白水社編集部

 

比較的話者の少ない言語の翻訳業をされている方々の語りを集めた本。

これはしばしば読み返したいと思う。

特に心に刻みたいのはふたつ。

ひとつは、「精読の次に翻訳あり」という言葉が本文中にあったこと。

まずはつぶさに読む。当たり前なのだが、外国語のプロでもまずはその作業をしているということで、精読と翻訳はまた別の作業である。

翻訳ってずっと憧れるなあ。

もうひとつは、オリエンタルとはもともとヨーロッパからみた東を指す言葉であり、オリエンタリズムはその派生で非西欧国の文化などを遠く離れた国々の異質かつ好奇心をそそるものとして志向するという意味合いで使われている、とはタイ語の翻訳者福冨渉さんの弁である。

どうしても「大きいところから小さいところを見る」という視点になってしまいがちな、いわゆる先進国民としての自分の態度を反省した。

似たようなことが『中学生から知りたいウクライナのこと』小山哲・藤原辰史(ミシマ社・2022)の中でも書かれていた。

自分の視座がどこからのものなのか、常に立ち返るようにしたいと思う。

 

映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形 (光文社新書)

著者 : 稲田豊史
光文社
発売日 : 2022-04-12

 

『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』

田豊史(光文社新書

 

早送りで観ることを自分はしようと思わないのだが、なぜそうなるのか理解できた。

若者はとにかく時間がないのである。

私は常々なぜ最近は誰も彼も「推し」を持っているのだろうと思っていた。

ネット社会において逆に特定のコンテンツに人気が集まって逆にみんなの持っている情報が同じになるという収斂化の時代が来ていると私は思っているのだが、それでも何か自分のオリジナリティが欲しい若者(に限らずあらゆる年代の人々)によって推し文化というものが隆盛していると感じる。

周りに追いつくために多種多様のコンテンツを「消費」することと、オタクへの羨望から来る推し活、それと本当にやらなくてはならないことによって時間が湯水のように消費されてストレスフルな人々によって杜撰と言ってもいいコンテンツの消費スタイルが生まれたのではないかと私は思っている。

 

『ペスト』カミュ新潮文庫

 

いや本当に今更だけど、2020年のコロナ元年に読めばよかった。

あの時は本当にコロナによる分断に悩まされていて、自分でもどうかしていたと思う。

すでに『ペスト』の中の人々が同じ苦しみを味わっているではないか。

これをあの時読んでいれば、どれほど救われただろうかと思う。

知恵袋で同じような鬱屈を抱えている人を探している場合ではなかった。

2022年になって読んでからもだいぶ救われた気持ちになったので、文学のある意味のひとつはこういうところにあるのだと思う。

『ペスト』の中でも「冬になったら弱まるらしい」とか言ってて(ならなかった)、我々も最初の夏のとき言ってたよなと笑ってしまった。

 

以上3冊、2022年のまとめでした。